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メールマガジン「法円坂」No.118(2011/3/15)(独立行政法人 国立病院機構 大阪医療センター)



 春間近となった3月11日、日本列島を恐怖におとしいれた「東日本大震災」
。日本に住む限り明日は自分自身が被災者になりうるかもわかりません。備え
あれば憂いなしの 言葉通り、防災について一度ご家庭で話し合われてはいか
がでしょうか。
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   メールマガジン「法円坂」No.118(2011/3/15)
          (独立行政法人 国立病院機構 大阪医療センター)
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今月号の目次
 ・院 長 楠岡 英雄 で す     
  ・がんシリーズ:がん薬物療法委員会
  ・「日本病院ボランティア協会1000時間活動」表彰者のご紹介(第2回)
 ・看 護 の こ こ ろ
  ・研 修 医 日 記
 
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         院 長 楠岡 英雄 で す 
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 東日本大震災に被災された方々に心からお見舞い申し上げます。

 当院はDMAT(災害派遣医療チーム、Disaster Medical Assistance Team)
の派遣を行いました。今後も、救援に向けてできる限りのことを行っていく所
存です。

 さて、昨年9月のメルマガで、東京医療センターで行われた医療専門職の服
装や身だしなみに関する患者さんへのアンケート調査の結果を紹介しました。
今回、同じアンケート調査を当院にて行った結果がまとまりましたので、紹介
します。

 当院の外来患者さん・入院患者さんに、昨年11月と12月、医療専門職の服装
や身だしなみについてアンケートに答えていただきました。ご協力くださった
方々にこの場をお借りし、お礼申し上げます。

 調査の内容は東京医療センターにて行われたものと全く同じで、提供いただ
いた東京医療センター院長松本純夫先生に感謝申し上げます。

 調査項目は3つです。第1は、医師等の服装で、特に白衣の着こなしに関す
るものです。アンケート調査では8つの服装の写真を提示し、それぞれについ
て、「非常に好ましい、好ましい、どちらともいえない、あまり好ましくない、
好ましくない」の5段階で答えていただきました


。8つの服装は以下の通りです。

外見A	ワイシャツでネクタイを締め、コート型の白衣を着ているが、前ボタ
    ンを留めておらず、前が開いている。
外見B	外見Aと同じ服装だが、白衣のボタンをきっちりと留めている。
外見C	ワイシャツだがネクタイはなしで、白衣を着ている。白衣のボタンを
    留めている。
外見D	外見Cと同じ服であるが、白衣のボタンを留めておらず、前が開いて
    いる。
外見E	いわゆる「ケーシー白衣」の上着を着ている。下は普通のズボン姿。
外見F	手術着のような医務衣(色は紺)の上下を着ている。
外見G	外見Fと同じ医務衣の上に白衣を着ているが、前のボタンを留めてお
    らず、前が開いている。
外見H	外見Gと同じ服だが、白衣の前ボタンを留めている。

 第2は外見Fで着ている医務衣の色についてです。青、えんじ、灰色、黒、
オレンジの5通りの医務衣について、「好ましい、どちらともいえない、好ま
しくない」の3段階で答えていただきました。

 第3は医師等の身だしなみについてです。次の質問に、「非常にそう思う、
そう思う、どちらともいえない、あまりそう思わない、全くそう思わない」の
5段階で答えていただきました。質問は、

男性医師があごひげを生やしているのは好ましくない。
男性医師が無精ひげを生やしているのは好ましくない。
男性医師がピアスをしているのは好ましくない。
男性医師が茶髪であるのは好ましくない。
男性医師が長髪であるのは好ましくない。
女性医師が大きなイヤリングをしているのは好ましくない。
女性医師が茶髪であるのは好ましくない。
女性医師がネックレスをしているのは好ましくない。
医療職が白衣をきたまま食堂で食事をとることは好ましくない。
医療職が白衣をきたままトイレで用を足すのは好ましくない。
医療職が香水をつけるのは好ましくない。
医療職の足元がサンダルであるのは好ましくない。

の12項目です。

 さて、アンケート結果をお示しします。738名の方々にお答えいただきまし
た。

 まず、最初の服装では、好感度の最も高かったのはEで、次いでBでした。
その次はCとFで、AとHはまずまずという所でした。一方、好ましくないと
判定されたのはDとGでした。これらの結果は東京医療センターで実施したも
のとほぼ同じでした。

 大阪医療センターでもケーシースタイルは医師の服装としてたいへん高く評
価されていることが判りました。また、コート型の白衣姿はネクタイを締め、
ボタンをかけることが大切ということも判りました。医務衣姿もそのままの格
好の方が受け入れてもらえているようです。また、白衣を着てもボタンを留め
ないというのはやはりマイナス評価でした。

 医務衣の色は、「青」が断突に好評で、「えんじ、灰色」はまあまあという
ところです。「オレンジ、黒」は最も嫌われていました。東京では「灰色」は
「オレンジ」と同じ程度にマイナス評価であり、「オレンジ」は「黒」ほど悪
い評価ではありませんでした。この点は東京医療センターで実施したものと異
なりました。

 身だしなみについては、「無精ひげ、男性医師のピアス、女性医師のイヤリ
ング、医療職の香水」の4つはほとんど受け入れてもらえないと


いう結果でした。それに続いて受け入れ難いのは、「男性医師の茶髪、長髪」
でした。「男性医師のあごひげ」も評判はよくありませんでした。「女性医師
の茶髪」、「医療職が白衣でトイレ」、「医療職のサンダル姿」については賛
否半々で、ややマイナスという所でした。「医療職が白衣で食堂に行く」のも
賛否半々でしたが、ややプラスでした。「女性医師のネックレス」はどちらか
というと好意的に受け止められていました。「医療職のサンダル姿」は東京よ
りは受け入れられていたようです。

 大阪医療センターでの調査結果は、東京医療センターでの結果とほぼ同じ傾
向を示していました。しかし、数値を細かく見ると、全般に、服装や身だしな
みについては大阪の方が東京より許容範囲がやや広いように思われます。今回
の結果を参考に、医療職の服装などについて考えていきたいと思います。


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      がんシリーズ: がん薬物療法委員会 
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 					 薬物療法委員会 久田原郁夫

 大阪医療センターのがん薬物療法委員会は、2004年に「安全で正確な、がん
薬物療法のシステムつくり」を第1の目標として設立されました。


現在では、内科系医師4名、外科系医師6名、看護師3名、薬剤師3名から構成さ
れ、毎月開催される委員会では、レジメン審査結果報告、インシデント報告を
中心に薬物療法に関連する議題について討議をおこなっています。また外来化
学療法室と共催でオンコロジーセミナーを年4回、開催しています。
 各科のがん薬物療法のレジメン、プロトコール審査の申請は随時受け付けし
ております。多くは標準治療またはそれに準ずる計画書申請ですが、それ以外
の治療が急迫している非標準的治療については、迅速審査としています。申請
必要書類として、詳細な計画書、同意書、文献を必須としています。各分野の
審査員がそれらを検討することで、総合的な評価ができる仕組みとなっていま
す。申請、登録数は年々、増加しており現在、院内で登録されているレジメン
数は122となっています。
 近年、使用されているがん治療に関連した新規薬剤は、いわゆる抗がん剤の
みならず、分子標的剤、ホルモン剤、ビスホスホネートなど極めて多岐に渡り、
ほとんど全ての科で多くのレジメン、プロトコールがあります。それらの治療
は、その患者さんにとって最適な計画がなされ、その計画どおりにかつ安全に
施行される必要があります。ところが薬剤の投与量や投与方法が複雑な状況に
なると、間違いが生じる可能性がでてきます。実際に予定以外の投与がなされ
た場合にはインシデントとして報告され、その背景について検討し以後は、エ
ラーのないように情報発信をしています。当院では幸い重大な事例は1つもお
こっていません。
 また、抗がん剤の取り扱いについては医療従事者への被爆がないようにつと
める必要があります。当院では、抗がん剤の調剤は、薬剤部において防護服の
薬剤師が安全キャビネット内でおこない投与前に病棟に輸送するシステムを確
立しています。また、投与スケジュールについては、各部門で2重チェックを
徹底化しており、計画書は2名の医師、調剤時は2名の薬剤師、投与直前は看護
師、医師によっておこなわれています。各部門で治療方法を共有することで安
全性を高めています。資料として、各薬剤の適切な取り扱い方法や血管漏出時
の処置などを記載した、がん薬物療法取り扱いマニュアルを作成し、3年毎に
改訂をおこなっています。マニュアルは各病棟に配置され、院内の電子カルテ
端末でも閲覧、ダウンロードできます。
 年々、進化していくがん治療における化学療法の役割は、重要な部分をしめ
てきています。治療をおこなう医療者のみならず、治療を受ける患者さん側に
も薬物療法の目的や副作用を理解していだき安心して治療を受けられる環境つ
くりが大切であると思います。


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 「日本病院ボランティア協会1000時間活動」表彰者のご紹介(第2回)
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                    ボランティアコーディネーター
                    藤本 和彰

 2010年10月29日、ホテルアウィーナ大阪にて「日本病院ボランティア協会 
2010年度総会・病院ボランティアの集い」が開催されました。病院ボランティ
アの集いでは、「1000時間感謝状贈呈式」が執り行われ、2010年度は272名
(累計3312名)の方々が表彰されました。当医療センターでは、ボランティア
「法円坂」の中村 美知子さんと川畑 良雄さん、そして「患者情報室」の河辺
 佳代子さんの3名の方が達成され、信田 禮子協会理事長より感謝状と記念バ
ッジが贈られました。
 前回に続き、受賞されました方々の喜びの声や、これからのボランティア活
動への熱き想い等お届けしたいと思います。今回はボランティア「法円坂」の、
川畑 良雄さんをご紹介します。

「オータムコンサートを終えて」           川畑 良雄

 2010年11月13日、少し銀杏の葉が色づき、やっと秋が来たかと思わせる土曜
日の午後、大阪医療センターで開催された、大阪府医師会フィルハーモニーに
よる、「第6回オータムコンサート」にボランティア「法円坂」のメンバーと
して参加しました。私は会場係りと写真撮影を受け持ち、動き回りました。

 大阪府医師会フィルハーモニーの演奏が始まると、音楽に合わせて躰を動か
す患者さん、足でリズムを取る患者さん等おられ、「音楽の力とはすごいもの
です・・・」又、音楽って良いものですね・・・。全員の方とはいかないが、
少しでも多くの方々のこんな一コマ一コマの良い表情を、レンズ越しに見るこ
とができ、貴重な体験をさせて頂き感謝しております。
 コンサートも最後のプログラムに入り、童謡、唱歌が演奏されると「自然に
フーッ」と口ずさむ患者さん、感情が高まって目頭を押さえる患者さん等もお
られ感動させられました。こんな一コマ一コマを写し撮る技術はありませんが、
良い勉強になりました。

 コンサート終了後、患者さんからいただく「ありがとうございました」「ご
苦労さま」の言葉は、私たちボランティアは疲れも吹き飛び、そのことばに元
気をいただきます。自分たちが演奏したような勘違いを起こしそうです・・・。
普段のボランティア活動では見られない患者さんの表情が直接伝わってくるコ
ンサートは、一時ではありますが、輝いているように思えて私たち・・・とい
うより、私の励みになっております。
 平ぜいのボランティア活動では、不安な気持ちで来院されている患者さんの
サポート、とりわけ再来受付機の説明、施設が広いので目的の診療科が見つか
らなくて困っておられる外来患者さんの道案内、又、入院患者さんを各病棟の
ナースステーションまでの道案内等、様々なお手伝いをさせていただいており
ます。「少しでも患者さんの気持ちが和らいで、診察、診療に向き合っていた
だければ」と思っております。最近、自分自身の気持ちが少し落ち込み気味に
なったり、友達とのコミュニケーションが上手くいかなくなっている時にボラ
ンティア活動をしていると、患者さんから「ありがとうネ」「いつもご苦労さ
ま」って云われると、逆に私が元気を頂き、有り難く感じております。
 この「ありがとう」は私自身が元気になれる「妙薬」だと思っております。
不安な気持ちで、この大きな医療センターの門をくぐって来られる沢山の患者
さんとの出会いがあって、様々な体験をさせて頂いておりますが、元気で明る
く笑顔を忘れずに、これからも活動して行きたいと思います。

 川畑 良雄さんには、当院ボランティア発足時(平成9年)から活動していた
だいています。音楽コンサートや日々の活動を通じての感想を述べていただき
ました。
大阪医療センターボランティアに於ける、「日本病院ボランティア協会1000時
間活動」表彰者はこれで23名(累計達成者)になりました。
 現在、病院ボランティア会員数は114名(2011年2月28日現在)になります。
「1000時間表彰」がすべてのボランティアさんの活動における自己目標であり、
希望であるかは分かりません。しかし日々活動された少しの時間が蓄積され、
大きな目標に一歩一歩近づく努力に感謝し、支え合いながら末永く活動してい
ただけるように努めたいと考えています。

☆大阪医療センターでは病院ボランティアを募集しています。
病院で自ら進んで労力、時間、技術などを提供して、患者さんにやさしさとう
るおいを提供すると共に活動を通じてボランティア自身の成長にも役立つこと
ができる活動です。
資格は特に要りません。自分自身が健康であり、優しさと何事にも積極的に取
り組む気持ちがあれば活動できます。また、活動回数は、個々のライフスタイ
ルに応じて決めていただいています。服装は活動しやすい服装でいいですが、
ピンクのエプロン・胸章など用意しています。
現在110余名のボランティアの方々が活動されています。一緒に活動してみま
せんか。
ボランティアを希望されます方、お待ちしています。
管理課ボランティア担当までご連絡ください。

・管理課ボランティア担当    TEL:06−6942−1331(代表)
・ボランティアホームページ →http://www.onh.go.jp/volunteer/
・患者情報室ホームページ  →http://www.onh.go.jp/jouho/jyohousitu.
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           看 護 の こ こ ろ
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                          西9階 病棟
                          江口 美華

 少しずつ寒さも和らぎ、色鮮やかな花が街のあちらこちらに見られるように
なり、春を感じる季節となってきました。
 大学を卒業して建設会社に就職、OL生活を送る中で、このままでいいのか自
問自答を繰り返し、人の為に働きたいと強く願うようになり、母と同じ看護師
の道を歩む事を決意し、看護学校を受験、看護学校での実習で1人のがん患者
さんとの出会いでがん看護に対する気持ちが強くなり、国立がんセンタ−に就
職しました。胃癌病棟で5年間働き、その後、生まれ育った大阪に戻り、大阪
医療センタ−では、外科、救命救急を経験し、月日が流れるのは早いもので看
護師12年目となりました。12年の間に、多くの患者さんやご家族と出会い、そ
の出会いから様々な事を学ばせていただきました。
現在所属する病棟は外科病棟で、疾患別では食道癌、胃癌、結腸癌、直腸癌、
肝臓癌、膵臓癌、胆嚢癌、肺癌、胆石症、ヘルニア等を扱っており、治療とし
ては手術療法、癌化学療法、放射線療法、緩和医療を行っています。
 医療の進歩に伴い、平均在院日数も年々短縮され、日々の入退院が多く、病
棟ではめまぐるしく時が過ぎているのが現状です。その中でどのように患者さ
んやその家族と向き合っていかなければならないかというのが私にとって常に
大きな課題となっています。
癌を告知され、治療を受けるために入院生活を余儀なくされる事は、患者さん
やご家族にとってその精神的苦痛は計り知れないものがあります。私の父も10
年前に肝臓癌を告知されました。母も私も看護師である前に患者の家族として、
父の肝臓癌を受容するための作業を幾度も繰り返し行ったのを今でも鮮明に覚
えています。治療のために入院した父を、患者さんの家族という立場で見舞い
に行き、改めて看護師という職業について考えらせられました。
 入院生活は患者さんの生活だけでなく、家族の生活をも一変してしまいます。
入院中はベッド周囲が患者さんにとって生活の全てとなります。その中で看護
師は患者さんにとって最大のキ−マンになるといっても過言ではありません。
患者さんの情報をより早くキャッチし、医師をはじめとする他職種との連携を
保ち、患者さんのADL拡大を目指し、QOL(生活の質)の向上を図っていく必要
があると思います。患者さんとの一瞬、一瞬の関わりの中で自身の五感や経験
を働かせ、患者さんにとって必要なもの、望んでいる事を察知し、患者さんに
とってよりよい入院生活を送ってもらえるようにしていきたいと考えます。特
に治癒を目的とした治療に反応しなくなった患者さんに対して行われる緩和医
療においては痛みやそれ以外の諸症状のコントロ−ル、それに伴う精神的苦痛
の軽減を目指して、患者さんだけでなく、その家族と懸命に向き合っていかな
ければなりません。残された時間をどのように過ごしたいのか、何を望んでい
るのかをきちんと受け止め、その為に看護師は何ができるのかを模索し看護を
行っていきたいと思っています。昨年、父が他界し、最愛の家族を失う気持ち
を経験しました。今まで自分なりに考えて看取りの看護をしてきたつもりでし
たが、家族を失った思いは、深く悲しく計り知れないものでした。
 患者さんやその家族が、最期の時間を自分達が願っていた通りに過ごせる事
で、患者さんだけでなく、その家族の精神的苦痛を和らげると共に、患者さん
が亡くなられた後、残された家族が悲しみを抱えながらも、新たな人生の一歩
を踏み出せると思います。
 心のケアに限界はありません。限られた時間の中で患者さんやその家族の思
いに寄り添っていける看護師でありたいと思います。
 人の為に働きたいとの思いで転職した初心を忘れず、今まで出会った患者さ
んや家族との出会い、また父を亡くして感じた事を自己の糧として、これから
も看護の道を進んでいきます。


看護部ホームページ→http://www.onh.go.jp/kango/kokuritu.html


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          研 修 医 日 記
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						研修医2年目
                        坂根 貞嗣
                        
 2年目研修医の坂根貞嗣です。当院の研修内容、システムや環境に関する説
明は既に他の多くの研修医によってなされていると思いますので、僕は1年目
の研修中3つの科を通じて関係したある一人の患者さんのエピソードを紹介し
たいと思います。僕たちの研修が実感として少しでも伝われば嬉しいです。

「総合内科編」
 研修医になってはや3ヶ月。総合内科の研修を続けてきたけど、毎日の業務
や当直を何とかこなして来た一方で、何かしら自分でも医者らしい事をしたい
と思うようになってくる時期。そんな中指導医から、若い男性患者さんを受け
持つよう言われた。5年以上に渡り原因不明の貧血が続いているらしい。「原
因不明」という所に心が躍り、受けもつ事にした。いざ本人に会うと、第一印
象は「白い人」。高度の貧血の為に全身の血色がなくなっているのだ。少し歩
くだけでも息切れがするし、ふらつきも出てくる為に、固定業に就く事が困難
で、ずっと自宅で引きこもり同様の生活を続けていたらしい。今までもいくら
か検査はされていたんだが、原因検索としての検査をもう一度一からやり直し
た。始めての骨髄穿刺で緊張しすぎて逆に患者さんになだめられて指導医に爆
笑されたり、過去の手術所見を手に入れる為に色んな病院で電話でかけあった
りと中々大変だったけど、苦労の甲斐あって小腸出血が疑わしい事がわかった。
結果を報告した時の彼の晴れやかな顔は今でも忘れられない。ここまで来たん
だからどんなに辛い検査が待っててもどこまでも調べます、という強い口調を
聴けたのはとても嬉しかった。その後消化器内科が彼を診て行く事になり、ほ
ぼ同時に僕も消化器研修へ移った。

「消化器内科編」
 科が変わると仕事内容も生活も全く変わってくる。同じ職業とは到底思えな
い位で、3ヶ月で培った自信は1日で崩れ去ってしまった。また一から勉強し直
し。消化器科に入ってからは、日中は検査と処置の介助に追われてしまうので、
患者さんに会うのはどうしても始業前、昼休み、終業後の時間となる。一方で、
ターミナルの患者さんも多いし、急変も多いので緊急の対応も要求される。ま
た、検査は侵襲性が高く、場合によっては合併症により死に至る場合もあり、
その場合のIC(インフォームドコンセント)は必死だ。そんな厳しい科だけど、
やはり病変に対し直接アプローチする事で診断を行い、必要であれば治療も自
分たちで行えるという達成感は、傍から見ていてかなり魅力的に映った。指導
医はアグレッシブな女医であったが、連れ回されて、共に色んな患者さんに苦
労しながらも、目まぐるしく回る日々には一番の充実感を感じられた。そんな
中、彼がダブルバルーン内視鏡を行う為に入院してきた。検査は長時間に渡り、
困難を極めた。2度に渡る手術により広範囲の癒着がある為、本来であれば腸
を縮めて手繰り寄せる事で進んでいく所を、少しも腸が短くなってくれないか
らだ。苦しんで呻いてている彼の体を無理やり押さえつけて、「頑張って、も
う少しだから」と声かけするのはとても辛かった。しかも残念な事に、一部の
観察が出来ず、出血点を確認する事が出来なかった。やや落胆しつつも「まだ
諦めてないです」といって彼は退院していった。

「外科編」
 しばらく彼の名を目にする事はなかった。僕自身も消化器科研修から外科研
修へと移り、再び全く質の違う忙しさの毎日を過ごしていた。重症患者さんも
長時間手術も多い為、絶対的拘束時間が他科に比べ圧倒的に長い。しかし外科
の指導医は、どんなに忙しくても笑顔で乗り切るタイプで、多量の仕事も要領
よくこなし、将来こうなりたいと強く思うようになった。そんな折に、彼の名
を再度耳にした。消化器科から外科へ、出血源の検索を行えないかと相談が持
ちかけられ、試験開腹を行う事になったのだ。入院して来た彼は再び気力を取
り戻し、「最後のチャンスです。何とか見つけてもらいたいです。」と力強く
話していた。いざ手術当日。少し遅れて手術場へ行くと、既に手術は始まって
いたが、その現場には大腸内視鏡を持つ消化器科主治医の姿もあった。試験開
腹で腸管の一部を開けて、そこから内視鏡を挿入して内部の観察を行うと、大
きな潰瘍の姿が目に飛び込んで来た。出血部位付近の腸管を切除、再吻合を行
い、手術は無事終了した。5年に渡る原因不明の貧血、そして僕が出会ってか
ら8ヶ月もの精査の結果が、遂に決着を見たのだ。後に病棟で彼の所へ行くと、
「まだ退院出来ないんですよ」と言って笑顔でうろうろ歩きまわっており、既
に「白い人」の面影は消え去り、実は本来は彫の深いアジア系の顔付きだった
事がわかった。

「最後に」
 僕は彼との出会いを通して、多くの科が連携を取って全力で一人の患者さん
に当たっていく当院のエネルギーの強さ、そしてそれが実を結んだ時の爽快感
を目の当たりにする事が出来、自分のモチベーションとなっています。当院で
は、遠い将来どういった医師になろうと思うか、そのモデルケースにきっと出
会えると思います。皆さんと一緒に働ける日を楽しみにしています。


臨床研修のホームページ→http://www.onh.go.jp/kensyu/index.html


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総編集長:病院長 楠岡英雄
編 集 長:副院長 恵谷秀紀、山崎麻美、徳永尚美 
編   集:百崎実花
発  行:独立行政法人 国立病院機構 大阪医療センター院長室
         (〒540-0006 大阪市中央区法円坂2-1-14)
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 朝早く歩いていると、どこからともなく甘い香りがしてきます。沈丁花の花
の香りです。 寒い冬に耐え、季節がくると確実に新しい芽を出す自然の不思
議さに魅了されます。被 災された皆様の一日でも早い復興を祈ります。
 

http://m-maga.onh.go.jp
メールマガジンのご感想をお聞かせ下さい。
www-adm@onh.go.jp 

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